ホテル総支配人の経験と人脈を生かして、地元を盛り上げたい
金沢文化スポーツコミッション
代表 平八郎氏
今回は、2018年7月に設立された金沢文化スポーツコミッションの代表である平八郎氏から、設立時に代表に就任した経緯や活動において重視していること、今後の展望などについてお聞きしました。
- Q,コミッションの概要と特徴を教えてください。
- スポーツコミッションの役割として、地域資源を活用して地域活性化に寄与するということがあります。ここ金沢市で地域資源というと、文化という意味合いが強く、多様性に満ちていて幅が広く、重層的で深いものがあります。金沢文化スポーツコミッションは、名前に「文化」を入れているように、スポーツと地域の個性である文化との連携が基盤になると考えています。コミッションの特徴は、地元の競技団体の支援を重視していることです。全国大会を誘致した際には、主催者より地元の団体への支援を手厚くする制度を設けていて、これが大会誘致に対するモチベーションになっています。金沢の地域資源である文化とスポーツを融合させることで、金沢らしい、金沢でしかできない演出、体験を生み出し、ファンを増やし、観光にもつなげることを狙っています。大会参加者に茶道や水引アクセサリー製作、金箔工芸といった体験イベントを同時開催したことは、関係者にも好評でした。
- Q,現在の役職に就くまでの 経歴と、コミッションで就業する(コミッションを立ち上げる)ことになったきっかけを教えてください。
- 自分は、長くホテル業界で仕事をしていて、最初は経理関係、その後は、名古屋や札幌、沖縄など全国で総支配人をしてきました。その中でも金沢にいた期間が長かった。2016年に金沢に戻ってきた時に、当時の市長から「スポーツコミッションを設立したいので代表になってもらいたい」と頼まれましたが、最初は断りました。コミッションの準備委員会が発足した時に声がかかり、出席だけならと思っていましたが、補助金の制度設計のことで、地元の競技団体ではなく、誘致される側の大会主催者、中央の競技団体にお金が入る説明を聞いた時に「地元の団体にお金が入るべき」と異議を唱えてしまい、関わらないわけにもいかなくなってきました。金沢にスポーツコミッションが必要なのかという疑問もありましたが、当時の金沢のホテル業の需給予測から来訪者を増やす新たな一手が必要という状況がありました。そのような中で、自分のことを「0もしくはマイナスから1を生み出せる人」と見込んでお願いしていると何度も頼まれるうちに、コミッションで金沢市への来訪者を増やすことができるかもしれないという期待や、何か新しいことにチャレンジする魅力、将来の子供達のためにしてあげられることがありそうという予感から、引き受けることにしました。兼務でもよいという話もありましたが、自分としては、やるなら本腰を入れて、ということで、ホテルをやめて代表を引き受けることにしました。収入は大きく下がりましたが、後悔はしていません。
地元の産業を生かし、関わりを深めていく
- Q,コミッションにおける役割を教えてください。
- ホテル業の頃から、自分は前例に囚われない新しいことが面白いと思ってやってきました。それが、採算が悪いホテルの立て直しにもつながっていたと思います。とにかく面白いと思えるアイディアを出して企画することが自分の役割と考えています。同じイベントでも、次には少しでもやり方を変えていくことで、ノウハウの幅が広がることになります。コミッションとしては、大会誘致への補助を出していますが、イベントの中で金沢らしいものを取り入れる工夫をしています。メンバーにも、団体との連携を深めることに加え、企画を考えることができるよう、様々な体験をしてもらっています。
スポーツと地域の個性である文化との連携が基盤に
金沢市の継承と革新をあわせて続けていく
スポーツコミッションを金沢市で根付かせたい
- Q,コミッションで働く魅力ややりがいは何ですか。
- 大会に参加した人たちが喜んでいる顔を見るのが、何よりのやりがいになります。地元の産業を生かしたトロフィーやグッズを作ることで、地元の幅広い人たちが関わり、喜んでくれます。外から大会に来た人も、ありきたりではない賞品を目にしてとても喜んでくれます。若いメンバーには、失敗しても良いので、自分が面白いと思えることにチャレンジしてもらっています。SNSの活用や商品開発などは、任せたことで成功し、コミッションの収入源にもなっています。
- Q,コミッションで働く難しさは何ですか。
- スポーツコミッションという言葉自体、まだまだ認知度が低く、スポーツ団体からも、地元の人たちからも、何をしている組織なのかわからないのが現状。各競技団体に何度も訪問してねばり強く理解を得る必要がありました。一度コミッションの支援を受けた団体は、何度も利用してくれますが、まだ競技に偏りがあります。設立当時は、もっといろいろなことを進めたかったのですが、コロナの影響は大きく、大会などがほとんど中止になってしまいました。2022年度に入って、ようやくイベントの数も増えてきましたが、まだまだ思うようにはできません。とはいえ、できない理由を並べるのではなく、どうやったらできるか、ということを常に考え、工夫を試みています。
- Q,何か面白いエピソードがあれば、教えてください。
- やはり、金沢の強みである文化を生かしたもの。例えば、アンサンブル金沢というプロオーケストラに、プールの上で演奏してもらったこともあります。弓道と茶道のつながりを体験したり、卓球大会でラケットに金箔貼りをしてもらったり、ソフトボール大会で和太鼓演奏、飛込と横笛の競演、ヨガとコーラスなど、今までなかったようなコラボを企画して、実現のために工夫しています。
- Q,今後取り組みたいことは何ですか。
- 設立当時は、第一に大会誘致、第二にはアマチュアスポーツの周辺でビジネスを生み出せるようにすること、その後は、国際的な健康都市認定制度である「グローバル・アクティブシティ」を目指し、金沢市で認定を取ることを目標としていましたが、コロナ禍で大会誘致がやっとという状況でした。ようやく誘致件数も増えてきたので、そろそろ次の展開を考えていきたいです。まずは、スポーツコミッションを金沢市で根付かせて、自分がいる間に強固な体制をつくっておきたいと考えています。金沢市は伝統あるまちですが、伝統は守るだけでは衰退してしまう。継承と革新をあわせて続けていくことが大切で、その気概を金沢市は持っていると思うので、上手く進めていく土壌はあると思います。そういった気風が、自分がコミッションの代表を引き受けた理由の一つにもなっています。
“学生の就職先にしたい。”
大学でスポーツマネジメントを学んでいる学生の中には、地域のスポーツコミッションで働きたいと思っている人もいると思います。スポーツコミッションが、そういった学生の就職先になれるとよいと思います。現在のコミッションの活動規模では、まだ受け皿としては難しいですが、全国各地でコミッションが立ち上がる中で、すそ野が広がっていくことを期待します。
- プロフィール
-
金沢文化スポーツコミッション
代表 平八郎氏
1959年 東京都出身 1983年 慶応義塾大学卒業(体育会ソッカー部) 1986年 全日空ホテルで働く 2004年 金沢全日空ホテル 管理部長 2008年 ANAクラウンプラザホテル金沢総支配人 2016年 リージョナル総支配人(金沢・富山 ほか) 2018年 金沢文化スポーツコミッション設立 代表就任(7月) 2018年 退職(6月)