プロチームで育んだ人脈が地域とスポーツをつなぐ
一般社団法人ツノスポーツ コミッション代表
代表 石原英明氏
今回は、2019年4月に設立されたツノスポーツコミッション(以下、ツノSC)の代表である石原英明氏から、立ち上げまでのスポーツとの関わりや、運営に関わった人脈、活動における苦労や活動において重視していることなどについてお聞きしました。
- Q,コミッションの概要と特徴を教えてください。
- ツノSCは、スポーツを活用して人・事業・企業を呼び込み、地域課題を解決することを目指し、2019年に設立されました。活動の中心になったのは、宮崎市を拠点に活動していたサッカークラブ(現・ヴェロスクロノス都農)を都農町に誘致したことです。都農町、ヴェロスクロノス都農、ツノSCの三者で「つの職育プロジェクトに関する連携協定」を締結し、地域活性化プロジェクトをすすめています。チームの拠点を都農町に移転することで、トップチームの選手・スタッフ・家族が2年間で約100名移住し、高齢化と人口減少が進む都農町にとっては、大きなインパクトのある若者の転入となりました。選手の一部は地域おこし協力隊として都農町に着任しており、サッカー選手として活躍する一方で、地元の農業の支援や空き家活用などの地域協力活動に従事しながら、各々の職業スキルを磨いています。また、高校生年代を中心とした育成機関であるツノスポーツアカデミーを設立、寮生活をおくる若者を、地域をまきこみながら育成しています。ツノSCの現在進行中の事業は、人材育成としてのツノスポーツアカデミー、移住定住対策事業、労働力対策としての農業支援事業があります。
- Q,現在の役職に就くまでの経歴と、コミッションで 就業する(コミッションを立ち上げる)ことになったきっかけを 教えてください。
- 自分の出身は岐阜県岐阜市ですが、スポーツに興味があったので、早稲田大学の人間科学部スポーツ科学科に入学し、スポーツ組織論を学び、大学院まで進みました。卒業後、地元に戻ってJリーグの加盟チームであるFC岐阜のスタッフとして就職しました。FC岐阜では、ホームタウン活動など、地域貢献を推進する部署に配属され、地域イベントの企画立案やボランティアとの調整をしていました。ここで、当時代表をしていた今西和男さんと出会ったことが、自分の人生を大きく変え
ることになりました。今西さんは、人材育成を重視しており、サッカークラブがあることで、地域にどのような貢献ができるかをいつも考えている人でした。自分は、今西さんから様々なことを学び、それが現在につながっていると思います。ツノSCの設立には、他に宮城亮、河野佑介が関わっていますが、皆、今西さんの元で働いた仲間です。2013年からは、岐阜県内で独立してスポーツクラブを立ち上げ、スポーツ施設の管理や障害者スポーツの普及に関する事業などをしていました。2017年に、河野から声がかかったことがきっかけで、JリーグのV・ファーレン長崎の運営に関わり、その後鹿児島県の方でも働いていましたが、そのころ、既に都農町と関わりを持っていた宮城に誘われて、ツノSCの事務局長を引き受けることになりました。ここ都農町で、岐阜で今西さんの薫陶を受けた三人が再び集まり、活動がスタートしました。
地域のコミュニティにおける関係づくりが重要と考えています。
- Q,コミッションにおける役割を教えてください。
- 自分は、代表になってからは、あまり細かいところに入り込まずに、アカデミーや移住定住対策、農業支援といったグループのリーダーに現場を任せ、彼らが上手くマネジメントできるようにコントロールしています。コミッションの代表としては、スポーツに限らず、地域における幅広い分野の組織や団体との接点を作る役割も重要なので、いろいろなところに顔を出して交流して、連携するためのきっかけを作っておくようにしています。行政との関わりは大きく、様々な連絡・調整を行っています。地域の事業者との関わりもあり、最近では、近隣の自治体の青年会議所ともつながりを広げています。自分たちの活動を周囲に理解してもらうためには、地域のコミュニティにおける関係づくりが重要と考えていて、その役割を自分が担っています。宮城や河野は、様々なアイディアを出して実現していくことが得意で、自分は、それを調整していく役割を担っている、このあたりの役割分担は上手く機能していると思います。
高齢化などの課題と
スポーツによる活性化の組み合わせの良さ
- Q,コミッションで働く魅力ややりがいは何ですか。
- ここ都農町では、様々な活動にチャレンジできる環境には恵まれていると感じています。人口1万人程度の地方都市で、高齢化、人口減少が大きな課題の中で、スポーツによる活性化という組み合わせは相性が良いと思います。合意が得られれば、手早く取組を進められる、というのは小さなまちの特徴かもしれません。現在の自分の役割としては、いろいろな取組にマネジメントとして関わっていけることも面白いと感じています。
- Q,コミッションで働く難しさは何ですか。
- ツノSCは、スポーツを使って地域のためになることをしたい、と考えているわけですが、実際何をしている組織なのかを町の皆さんに認知してもらうのはなかなか難しいです。また、活動においては行政との関係が重要ですが、行政の担当者は異動が多く、継続的に設立趣旨や背景を引き継いてもらう難しさもあります。自分たちはもともと都農町の人間ではありません。組織の役割や理念が伝え切れていないために、誤解を受けてしまうこともあります。活動がはじまってまだ数年ですし、活動内容も、人材育成を含め短期的にわかりやすい効果が出るものではないので、組織として地域全体に受け入れられている、という状況ではないと思います。存在や活動を少しでも知ってもらうために、「つのおこ新聞」の発刊やSNS、Youtubeを活用した活動報告や都農町の魅力発信を続けています。
- Q,今後取り組みたいことは何ですか。
- 今までのところ、ツノSCの運営では、地域おこし協力隊の制度を活用して人件費や活動費の一部を賄っています。自分達スタッフやサッカークラブの選手も地域おこし協力隊として活動しています。ツノSCの活動内容が地域おこし協力隊の制度と合っているからできることではありますが、将来的には、この仕組みに頼らなくても自立して運営できるようにしなければと考えています。ツノSCは行政が行うべき公益的な役割も担っているので、できる限り行政との協働を図り、さらには地域の民間企業の力も借りながら、地域全体のまちづくりに向けた取り組みとして発展させていきたいと考えています。
地域おこし協力隊とは?
都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、生活の拠点を移した者を、地方公共団体が「地域おこし協力隊員」として委嘱。隊員は、一定期間、地域に居住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援なの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組。(総務省HP参照)
ここ都農町では様々な活動にチャレンジできる
“スポーツの価値を見出していく意識を持って”
自分の活動のモチベーションになっているのは、かつて同じ人に育ててもらい、同じような感性、志を持った人と一緒に活動できているということです。大学でも職場でも、尊敬できる人や、気の合った仲間とのつながりは、一生大切にすべきと思います。スタッフの中には、岐阜FC時代に一緒に働いていた人が来てくれたりもしています。スポーツコミッションの活動の成果は、短期間で出るものではないと思っています。活動の理念は、スポーツを使って地域活性化を目指すことではありますが、スポーツが大好きというだけでは地域で理解されませんし、地域活性化のためにすべてをかけて、という意識が強すぎても、疲れてしまい長続きしないのではと思います。日本におけるスポーツコミッションの歴史はまだ浅いので、いろいろなことを試行錯誤しながら、その地域の中でのスポーツの価値を見出していく意識を持って関わっていくのがよいのではないでしょうか。
- プロフィール
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一般社団法人ツノスポーツ コミッション代表
代表 石原英明氏
1984年 岐阜県岐阜市出身 2008年 早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科修了 2008年 FC岐阜で地域貢献推進部に所属 2013年 IGSユニバーサルスポーツクラブ設立 岐阜経済大学で非常勤講師 岐阜県サッカー協会理事など 2017年 V・ファーレン長崎で ホームタウン事業など 2018年 コミュニケーションパートナーで事業部長サッカークラブ運営など 2019年 ツノスポーツコミッション設立事務局長 2020年 ツノスポーツコミッション代表理事就任