湖を核としたスポーツ資源をマネジメントで生かす
一般社団法人土佐町スポーツコミッション
専務理事・事務局長 古賀智志氏
今回は、土佐町スポーツコミッション専務理事・事務局長の古賀智志氏から、スポーツコミッションに着任するまでの経緯や働くやりがいなどについてお聞きしました。
- Q,コミッションの概要と特徴を教えてください。
- 高知県土佐町は、四国のちょうど真ん中に位置し、森林率87%の豊かな山林に囲まれた自然豊かなまちです。西日本一の貯水量を誇る早明浦ダム(さめうら湖)を有しており、それらを地域の誇れる独自資産、観光資源として再定義したことが、コミッション誕生のきっかけとなりました。さめうら湖は広大で、しかも風や波の影響を受けにくいことから、カヌーに着目し地域振興の推進力にするチャレンジがスタートしました。2018年にカヌー先進国であるハンガリーから元世界チャンピオンのラヨシュ・ジョコシュ氏を招聘、地域の児童・生徒を対象に競技カヌーのクラブチーム「さめうらカヌーアカデミー」を創設しました。さらに2020年には艇庫にガイドツアーなどツーリズムの拠点機能を備えた「さめうらカヌーテラス」が竣工し、競技スポーツとレジャーの両輪でカヌーを通じたまちづくりを推進するインフラが整いました。これら土佐町が中心となって手掛けてきた様々な取り組みを効果的かつ機動的に推進することを目的に2021年4月、一般社団法人土佐町スポーツコミッションが設立され現在に至ります。
- Q,現在の役職に就くまでの経歴と、コミッションで 就業する(コミッションを立ち上げる)ことになったきっかけを 教えてください。
- 大学まで福岡で過ごし、卒業後、医療機器メーカーのテルモ株式会社に入りました。入社後10年ほどは病院向け製品の営業部門で九州や首都圏を中心に活動、それから東京本社に異動し人事を皮切りに広報、さらにはドイツに本社があるグローバル企業とのジョイントベンチャー経営にたずさわるなど、いわゆるコーポレートスタッフとしていろんな経験をさせてもらいました。今回、自身のキャリアを振り返って、何がコアといえるのか?ひと昔前の典型的な(近年は評判の悪い)ジェネラリスト?などと自問してみたものの、はっきりとした答えは出てきません。ただ、今の自分から振り返ってみて、いくつか思いあたることは見つかりました。最初に思い浮かんだのは「面談」です。医師との面談、新卒採用時の学生面接、エンジニアや海外経営人材のキャリア採用、国内・海外の機関投資家とのリレーションなど、私の仕事は、年間数百から数千の「面談」で覆いつくされていました。二つ目は「プロジェクトマネジメント」です。採用計画、事業戦略、世界に点在するオフィスや工場をむすんだ商品開発など、多種多様なプロジェクトを担当者として、また責任者として経験しました。最後は、これらを通じてあらゆる職種、国籍の人々と仕事をしてきた「なんでも屋」とでもいえる経験でしょうか。何となくこれらの要素は今の糧になっているような気がします。さて、今の仕事に就くきっかけですが、いくつかの偶然のたまものとしか説明できません。まず、子育てがひと段落した頃、妻が突然大学に入り直しました。スポーツを通じた地域振興が主な専攻テーマで、このことをきっかけに家庭での話題が大きく様変わりしました。これまで、「多種多様な経験」などと述べてきましたが、所詮ビジネスの世界からしか世の中を見ていなかったことを痛感させられました。その妻が大学院卒業を前にして自身の就職先を探していたところ、在学中に自由研究でたまたまお世話になった土佐町在住の方のSNSで「コミッション事務局長公募」の情報をキャッチ、募集要綱には、組織運営、人事、広報、英語などの言葉が散りばめられてあり、気がつけば妻を通り越して翌日には私が履歴書を書いていました。
経験が役に立ちそうと直感的に応募
土佐町=コンパクト=仕事の魅力とやりがい
- Q,コミッションにおける役割を教えてください。
- 私は理事4名のうち唯一の常勤理事(専務理事)として事務局長を兼務しています。まだ発足間もないベンチャー法人ですから、草創期を乗り越えて地域に根差した確固たる組織に成長していくには多くの困難やハードルが待ち構えています。中長期の経営戦略を練り、事業ポートフォリオに関するリサーチや提案をまとめ、持続的な経営基盤を構築していくことが一番の役割だと思っています。日々の管理業務、カヌー関連事業の運営などについては、町役場から派遣されている事務局次が抜群のサポートをしてくれていますので、二人三脚で”無限の荒野”を切り開いている感じでしょうか(笑)。
また、公募で外部から来た者としての役割も大いにあると思います。土佐町のような中山間地では、事業ポテンシャルが限定され、民間企業同士の競争原理が極めて働きにくい現状があります。行政が公的資金を投じてのスタートアップ支援も長期の継続は難しく、だからこそ一般社団法人という経営形態を選択したのだと着任からしばらくして腑に落ちました。当法人の運営資金は、カヌーテラスの指定管理、カヌー関連事業の補助金が大半を占めており、その現状から法人運営のガバナンスならびに資金の使途に関する透明性の確保は絶対条件です。中山間地の濃密な人脈や助け合い精神を最大限生かしつつ、健全な経営を担保していくことは、当たり前のことながら案外最も重要なミッションなのかなと思ったりしています。
- Q,コミッションで働く魅力ややりがいは何ですか。
- 一番に挙げたいのは土佐町の自然の素晴らしさです。朝玄関を出て、景色を見て、深呼吸をするだけで体の細胞がいきいきしてくるのを実感します。食材がまた秀逸で…何の話がわからなくなってきましたね…話をもとに戻すと…自分が何か責任を持って役割を果たしていこうと思う時、その範囲というか規模感は結構大事なんじゃないかと思います。土佐町の数千人という人口は、決してハンディではなく、強みにしていける可能性が大いにあることをこの地に来て確信しました。町の人々と役場が一緒になって地域のいろんな企画をやってきた素地がある、巨大な投資は必要なく実施後の効果もダイレクトに把握しやすいなど、コンパクトならではのメリットは多い。そのことがここで働く魅力とやりがいに密接につながっていると思います。
- Q,コミッションで働く難しさは何ですか。
- バックグラウンドが異なる人々といかに連携してビジョンを実現していくかにつきると思います。当法人のメンバーだけをみても直接雇用は私のみ、それから土佐町で生まれ育った町職員、全国から集まった地域おこし協力隊の集合体ですから、出身や雇用形態はもちろん、それぞれの働く目的やキャリアプランも様々で、ベクトルを合わせる難易度は民間企業のそれと比べても次元が異なります。また、当法人の設立趣旨からすると、利益追求が目的ではないけれど、投資効果はしっかりと示していく必要がある。その辺りの立ち位置や具体的に何をしているところなの?といった町民の素朴な疑問も含めて、丁寧に対応しながら目指すべき方向を見失わないようにすすめていくことが、なかなか一筋縄ではいかないなと感じています。
- Q,今後取り組みたいことは何ですか。
- 地域振興は今、大きな転換点を迎えているのではないでしょうか。例えば、先生の働き方改革が出発点となった学校運動部活動の議論は、中山間地に暮らす子供たちにとって、スポーツの体験や修練の機会そのものを根こそぎ奪うリスクを内在しています。また、ツーリズムに関しても地域の住民や働いている人々にフォーカスした“今そこにある魅力”を発見する旅に注目が集まっていますね。そのような社会動向や地域のニーズの変化と我々が手掛けている取り組みをぶつけてみて、これからすすむべき道筋をクリアに描くことが重要だと考えています。併せて、それを実現する人員体制も着実に整えていきたいと思っています。
“スポーツと関係なくても大丈夫!”
スポーツとは無縁の私でも町の皆さんに温かく迎えてもらい充実した日々を過ごしています。何となく“役に立っている実感”がそう勝手に思える理由かもしれません。自分ができること、できそうなこと、苦手なこと、助けてほしいことをオープンにすることを心がけています。ご興味があれば是非一度土佐町へ、お待ちしています!
- プロフィール
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一般社団法人土佐町スポーツコミッション
専務理事・事務局長 古賀智志氏
1963年 福岡県出身 1986年 大学卒業後、テルモ株式会社に入社 1999年 本社に異動、人事、広報の関連業務を歴任 2011年 ドイツ企業との合弁会社に出向 2018年 本社に戻り、国内組織改革のプロジェクトを担当 2021年 土佐町スポーツコミッションの事務局長に就任 2022年 同 専務理事を兼務、現在に至る