クリーブランドスポーツコミッション

Greater Cleveland Sports Commission

設立
2000年
所在地
オハイオ州カヤホガ郡クリーブランド
予算
230万ドル
職員数
14人

目次

  1. クリーブランドの概要
  2. 設立経緯と経済効果
  3. 資金調達
  4. 職員と採用・教育方法
  5. 人材への期待
  6. 組織体制
  7. ステークホルダーとの関わり
  8. イベント運営
  9. 宿泊税
  10. 今後の事業のあり方

クリーブランドの概要

 クリーブランド(Cleveland)は、オハイオ州の北東部に位置し、五大湖・エリー湖に面する人口約36万人(2022)の都市である。カヤホガ郡(Cuyahoga County/人口124万人:2022)の郡庁所在地でもある。2016年にNBA(National Basketball Association )を制したクリーブランド・キャバリアーズ(Cleveland Cavaliers)の本拠地であるロケット・モーゲージ・フィールドハウス(Rocket Mortgage FieldHouse)、NFL(National Football League)に所属するクリーブランド・ブラウンズ(Cleveland Browns)の本拠地であるファーストエナジー・スタジアム(FirstEnergy Stadium)、MLB(Major League Baseball)に所属するクリーブランド・ガーディアンズ(Cleveland Guardians)の本拠地であるプログレッシブ・フィールド(Progressive Field)など、アメリカで人気のスポーツのスタジアムが市内中心部に集積しており、それぞれのスタジアムを徒歩で行き来できる「スポーツダウンタウン」がデザインされている。

設立経緯と経済効果

 Greater Cleveland Sports Commission(以下、クリーブランドSC)は、都市の経済活性化のため、2000年に内国歳入法501(c)(3)に規定される非営利法人として設立された。CEOはDavid Gilbert氏であり、クリーブランド市のDMO/CVB(Convention & Visitors Bureau)にあたるDestination ClevelandのCEOも兼任している。クリーブランドにスポーツコミッションが存在しなかった1990年代までは、Destination Clevelandが観光を通して都市の経済効果とイメージ向上を担って活動していたが、スポーツのユニークな特性に着目し、スポーツイベントの招致を行う専門組織を独立させて運営する必要性が認識された。最大の理由は、CVBでは活動が多岐にわたり、スポーツイベントを専門に活動するスタッフを多く雇用することが不可能な点にあった。こうした経緯により、2000年に正式にクリーブランドSCが誕生した。
 クリーブランドSCのミッションは、スポーツイベントの力を活用した経済効果の創出である。設立から数えると210のイベントを招致・開催し、8億6,000万ドルの経済効果をもたらしており、2024年は14イベントの招致が決定している。Gilbert氏によれば、イベントの開催数は都市にあった規模で運営する必要があり、これ以上のイベント招致はクリーブランドのサイズを考慮すると現実的ではない。毎週のようにイベント催せばより多くの人材の雇用が必要になり、自治体のサポート体制もより一層充実させなければならないからである。

資金調達

 2022年の年間予算は約230万ドルである。Destination Clevelandからの30万ドルに加え、郡・市からの経済効果補助金も獲得しているが、半分以上の資金はイベント収益とファンドレイジングで賄っている。なかでも特徴的な収入源が、非営利法人の理事による寄付である。クリーブランドSCには約75人の理事が在籍しており、その中で15人がエグゼクティブボードとして在籍している。理事の内訳は地元の企業、スポーツチーム、メディア関係者であるが、エグゼクティブボードには毎年2万ドルから3万ドルの寄付を義務付けている(その他の理事の寄付を含めると、一人あたり年間で平均約1万2,000ドルとなる)。これらの寄付額は、前述の501(c)(3)の規定によって100%税額控除されるという仕組みである。なお、日本でも特定非営利活動法人の認可を受けることで、控除額は異なるものの同様のメリットを享受できる。理事企業の中には年間の事業の状況によって高額の寄付ができないケースも存在するが、その場合は異なる形でのクリーブランドSCへの貢献を期待して3年間の猶予期間(Grace Period)を設けており、すぐに除名といったペナルティは現在のところ設定されていない。また例年、審査が必要となるが、25万ドルの運営補助金をクリーブランド市から獲得している。審査ベースのため獲得できる保証はないものの、15年間継続して獲得している実績からも、クリーブランドSCの活動が評価されていることを示唆している。

職員と採用・教育方法

 調査時点で16人のフルタイム職員が在籍している。年間報酬は役割によって異なるが、エントリーレベル(新卒レベル)で約4万ドル、マネジメントレベルで約10万ドル、組織のトップクラスになると約16万ドルの報酬を支払っている。なお、非営利法人であるため、これらの報酬はアメリカの一般企業と比べて少ないとされる。また、アメリカでは居住コストを考慮して報酬が決定されることがほとんどである。クリーブランドはアメリカでも大きな都市と認識されているが、居住コストは比較的低い。居住コストの高い大都市圏でスポーツコミッションを運営するには、より高い報酬が求められ、それをクリアできなければ優秀な人材の採用も雇用維持も期待できない。
 上記のベース報酬に加え、充実した健康保険などの福利厚生や3年勤続するたびに支払われるボーナス制度も整備している。また、スタッフの教育にも力を入れており、授業料の支払いこそしていないが、リカレント教育(大学院に戻って勉強する)も推奨し、その間のサポートの充実も図っている。
 職員の採用方法について、マネジメントレベルでは様々なネットワークを通じてその時に必要とされるスキルを保有している人材を雇用している。エントリーレベルの採用については、多くがインターンからスタートする。インターンの採用は地元の大学(クリーブランド州立大学:Cleveland State Universityなど)からセメスター(学期)契約で雇用する。基本的に大学生インターンは無報酬だが、能力のある学生を採用するためファンドレイジングを行い、時給15ドルを支払っている。夏の授業がない期間の募集では、5つのインターンポジションに400~500通の履歴書が届く。
 なお、前述の16人のフルタイム雇用のうち、イベントに紐づいて雇用されるケースもある。2024年にクリーブランドで開催予定のパンアメリカンマスターズゲーム(Pan-American Masters Games)に関しては大規模イベントのため、これに紐づく従業員は16人とは別に追加で10人を雇用している。これらの特定イベントに紐づくスタッフは、多くの場合大学・大学院を卒業したばかりのエントリーレベル職員であり、イベントが終わると組織から離れる。ただ、イベント後に組織を離れることになっても、イベント業界は狭いため、業界のどこかで再雇用されるようサポートも実施している。これらの職員も考慮すると、クリーブランドSCにおいて特定のイベント予算に紐づかないフルタイムの従業員は14人となる。

人材への期待

 職員の多くはスポーツ関連のバックグラウンドを持っている。大学でスポーツビジネスを勉強した者もいれば、元アスリートもいる。当然、それぞれの人材には専門性も期待するが、組織のミッションに賛同する人材の雇用が重要となる。1つ目の重要な視点は、スポーツが好きということである。スポーツが好きというのは、この仕事に情熱を持って取り組むことができる人材と認識されている。2つ目に重要な視点は、コミュニティと何かしらの接点を持っていることである。クリーブランドSCの仕事とは、コミュニティへの貢献である。クリーブランドに住みたい、家族がいるなど、コミュニティとの心理的接点を持っている人材は採用の際には好意的に捉えられている。

組織体制

 大きく分けて、管理(Administration & Development)、開発(Business Development)、事業(Operations)の3つの部署から構成されている。組織として大事にしていることはイベントの成功であり、マーケティングサービスなどはすべて無償で提供している。

ステークホルダーとの関わり

 最も重要なステークホルダーはクリーブランド市及びカヤホガ郡である。スポーツコミッションを運営する中で、イベントを招致するたびに行政のサポートが必要となる。例えば、スポーツイベントの招致・開催によってホテルの稼働率が増加すれば、ホテル業界には利益となる。一方で、イベント開催時のセキュリティや発生するゴミの収集などは行政の仕事となり、クリーブランドSCはこれらの行政コストが妥当であることを正当化しなければならない。イベントの経済効果がその説得材料になるが、コミュニケーションが円滑でなければメッセージが伝わらない。クリーブランドSCでは行政を中心とした様々なステークホルダーに1ページのみの四半期レポートをメールで送っている。これ以上の長さのレポートは読んでもらえないため、短くまとめてコミュニケーションを図ることが重要となる。

イベント運営

 アメリカではスポーツ大会を招致する際、招致費(hosting fee)を支払わなければならないケースがあり、大規模な大会であればあるほど招致費は増加する。例えば、全米大学体操選手権を招致するためには、全米大学体育協会(NCAA)体操組織に20万ドルの招致費を支払わなければならない。NCAA女子のファイナル・フォー(Final four:全米大学バスケットボールのチャンピオンシップイベント)を招致・運営するには合計で240万ドルの費用が必要になる。ただし、これらのイベントの招致に際しては、イベント運営による直接的な収益だけでなく、様々な収益の柱を作ることが可能である(例:自動車の記念ナンバープレートの販売、各種広告、スポーツアワードの開催など)。さらに、すべてのコストを直接NCAAに支払えない場合でも、スタジアム内での広告関連費用や施設利用料、セキュリティ費用など様々なコストを招致団体が賄うという契約上の交渉も可能である。
 クリーブランドSCではこれらの大規模なスポーツイベントをはじめ、青少年のスポーツイベントも含めたイベントポートフォリオを組んでいる。イベントの中には、ジュニアレベルの陸上競技イベントといった参加競技者数が少ないケースもあり、これらの小規模イベント単体では、時に黒字化できない。しかしながら、イベント招致・運営における信用を獲得することができれば、次のイベントの招致に繋がるという未来の収益に貢献する可能性がある。組織全体として単年で大きな赤字にならなければ、運営できる範囲で招致を行っている。

宿泊税

 クリーブランドSCは、直接行政からの宿泊税の恩恵は受けていない。参考までに、クリーブランドでは9.5%の宿泊税(カヤホガ郡6.5%+クリーブランド市3%)が適用されており、来訪者はホテルに宿泊する際、消費税8%を加えた17.5%を宿泊料に追加して支払うことになる。これらの宿泊税は行政が集約し、必要となるステークホルダーに分配するというシステムが一般的である。なお、宿泊者のバックグラウンドに応じて宿泊税を変動させるのは差別に当たる可能性があるため、税は一律で課すケースが通例である。クリーブランドでは、この宿泊税が住民の負担になっている可能性に関して調査が行われた。その結果、宿泊税全体の約3%程度は住民から支払われているという試算が報告されている。日本においても、差別に当たらない形で、訪日外国人観光客からの税収を検討し、住民からの負担と差別化する戦略が求められるだろう。

今後の事業のあり方

 クリーブランドSCは、アメリカにおける今後のスポーツコミッション事業のあり方としてモデルケースになりうる。イベントの権利者はスポーツコミッションのような組織を必要としており、ニーズはこれからも強くなっていくと予想されている。アメリカではスポーツイベントは不況下においても比較的影響を受けずに成長を続けており、特に青少年を対象にしたスポーツイベントは不況と関係ないと言っても過言ではない。クリーブランドSCでは国際的なイベントに注力しているわけではない。理由として、多くの海外からの来訪者はアメリカのビザを必要とするなど、招致・開催にハードルとなる要因が多い。国際スポーツイベントを開催しないほうが良いというわけではないが、国内のスポーツイベントを主としてバランスの良いポートフォリオを形成していく必要があると考えている。