コロンバススポーツコミッション
Greater Columbus Sports Commission
目次
コロンバスの概要
コロンバス(Columbus)は、オハイオ州の中央部に位置する人口約91万人(2022)の都市である。オハイオ州の州都及びフランクリン郡(Franklin County/人口132万人:2022)の郡庁所在地であり、同州の政治・行政の中心地である。コロンバスのユニークな特徴は、収容人数10万人のオハイオ・スタジアム(Ohio Stadium)を有するオハイオ州立大学(Ohio State University)を中心とした大学街でありながら、プロスポーツチームのホームタウンとしても機能している点にある。MiLBのトリプルA(AAA)に所属し、野茂英雄氏や松坂大輔氏が一時在籍していたコロンバス・クリッパーズ(Columbus Clippers)が本拠地とするハンティントン・パーク(Huntington Park)や、NHL(National Hockey League)に所属するコロンバス・ブルージャケッツ(Columbus Blue Jackets)の本拠地であるネイションワイド・アリーナ(Nationwide Arena)、MLS(Major League Soccer)に所属するコロンバス・クルー(Columbus Crew)の本拠地であるロウアードットコム・フィールド(Lower.com Field)といった大型スポーツ施設が位置するスポーツ都市でもある。
設立経緯と経済効果
Greater Columbus Sports Commission(以下、コロンバスSC)は、都市の経済活性化を大きな使命として2002年に内国歳入法501(c)(6)に規定される非営利法人として設立された。活動資金に関しては、コロンバスのDMO/CVBにあたるExperience Columbusからの補助金がメインである。したがって、経済の活性化が主要な設立目的ではあるものの、一般的なDMO/CVBの目的である都市のイメージ向上、住民のウェルビーイング向上、社会的インパクトの創出も視野に入れた活動を行っている。
設立当初は25万ドルの運営資金からスタートし、2023年は300万ドルの予算規模で運営されている。2002年の設立当初から数えると600以上のイベントを招致・開催し、コロンバス都市圏に6億2,500万ドル以上の経済効果を生み出してきた。招致したイベントの中には、毎年実施される年次イベントに発展したものも複数存在する。年次イベントの割合が高すぎると組織運営上のリスクにもなるが、新規イベントの割合が高すぎると招致活動や準備の負担から従業員の疲弊に繋がるため、都市や組織の規模を考慮して年間で合計70~80の継続イベントとこれに新規イベントを加えたバランスを考えながら招致・運営している。
資金調達
2023年のコロンバスSCの年間予算は約300万ドルである。宿泊税を財源としたExperience Columbusからの補助が80万ドル、独自イベントの参加費から50万ドル、残りをファンドレイジングで賄っている。Experience Columbusはコロンバス市が得る宿泊税の23.8%を運営資金として受け取り、そのうち7%がコロンバスSCに補助される。補助額の割合に関してはアメリカの他のSCと比較すると低いとされるが、都市へのイベント招致によってホテルの稼働率を上げることができればスポーツコミッションへの補助額が増加するという仕組みは、他の多くの都市でもみられる。
また、コロンバスSCでは地域の企業や住民に向けて独自のイベントを企画・実施している。地域企業を対象としたコミュニティカップ(地域の企業同士が14のスポーツ種目で競う企業対抗運動会)と地域の青少年に向けたコミュニティキャンプ(6~12歳までの子どもたちを対象としたスポーツ教室)の2つである。このうちコミュニティカップでは、企業から従業員数に応じた参加費を徴収しており、コミッションの貴重な収入源となっている。
その他の収入源としてはクリーブランドSCと同様、寄付があげられる。コロンバスSCにはエグゼクティブレベルの理事が14人在籍しており、それぞれの理事から毎年最低でも2万5,000ドルの寄付を受け取っている。この寄付は非営利法人の特性から100%税額控除される。他にも、比較的若く、事業が成長段階にある企業もコロンバスSCの理事になることができ、この場合は年間最低5,000ドルの寄付を期待される。コロンバスSCは地域の企業とのパートナーシップを活発に進めており、調査時点で58の民間企業がパートナーとなっている。これらの民間企業パートナーと非営利法人などを含む公益団体とのパートナーシップを通して、年間約150万ドルを調達している。
職員と採用・教育方法
調査時点で12人のフルタイム職員が在籍している。年間報酬は役割によって異なるが、マネジメントレベルになると10万ドルを超える報酬を受け取り、その割合は全体職員の3割程度である。職員の採用方法に関しては、コロンバスSCの場合、オハイオ州立大学が位置する大学街という地の利がある。直近に採用した職員のケースでは、オハイオ州立大学の学生がインターンとして勤務を始め、後に常勤のエントリーレベルスタッフとして雇用された。逆に、コロンバスSCは大学生インターンやボランティアの募集も兼ね、大学に対して寄付講義を行うこともある。
人材への期待
コロンバスSCが従業員に期待する点は、スポーツ関連のバックグラウンドを持っていることと、コミュニティとの接点を持っていることの2点である。非営利組織として運営されているコロンバスSCは、同じエリアで活動している民間事業者に比べると報酬も低い。しかし、従業員の中にはスポーツの仕事ができているということ、自分の好きなコロンバスという街の中心街で仕事ができるということなどを、福利厚生として捉えている者もいる。
組織体制
組織は戦略パートナーシップ(Strategic Partnerships)、事業開発(Business Development)、イベント(Events)、マーケティング(Sports Marketing)の4つの部署から構成されている。特にマーケティング部署や戦略パートナーシップ部署は運営資金の獲得において重要な役割を担っている。
ステークホルダーとの関わり
コロンバスSCの重要なステークホルダーにコンベンションセンター(フランクリン郡が管理)がある。イベントを招致する際に特に考慮するポイントが、コンベンションセンターの稼働率である。コロンバスSCのように、宿泊税からの補助が運営資金の一部となる場合、自分たちが招致したスポーツイベントがどの程度市内のホテル稼働率に貢献しているかを意識する必要がある。そのため、コンベンションセンターで開催されるイベントとのスケジューリングを綿密に行い、都市への経済効果がより効率的になるよう協働している。
プロスポーツチームや大学も重要なステークホルダーである。スポーツコミッションとしてはチーム・大学が持つ施設などの資源を活用できることがメリットになるが、チームや大学からの視点からもコロンバスSCの活動は有益である。プロスポーツチームにとっては、施設が稼働していない時期の活用を部分的にコロンバスSCが担っている。また、オハイオ州立大学のようなブランド力のある大学にとっても、コロンバスSCが都市にスポーツイベントを招致することによって、来訪者に向けた大学宣伝ならびにブランディングに繋がる。
今後の事業のあり方
コロンバスSCは女性スポーツイベントに積極的に取り組んでおり、女性スポーツが現在のようなトレンドではなかった20年前から継続的に取り組んできた先駆者である。今後のSC事業のあり方として、女性スポーツに限らず、多様性とスポーツの掛け合わせを重要視している。
また、今後は外部組織とのパートナーシップをより一層強化していく方針である。現在は比較的スポーツ関連の企業とのパートナーシップが多いが、今後はパートナーシップのポートフォリオをより一層多様化させ、コロンバスSCが長期的に持続可能となるような体制を構築するよう努めていく予定である。