エリースポーツコミッション
Erie Sports Commission
目次
エリー郡の概要
エリー郡(Erie County)はペンシルベニア州北西部に位置し、五大湖・エリー湖に面する人口は約27万人(2022)の郡である。郡庁所在地は人口約9万人(2022)のエリー市。製造業が最重要産業として位置づけられており、造船業や鉄鋼関連産業が盛んである。また、プレスクアイル州立公園(Presque Isle State Park)やエリーブラフス州立公園(ErieBluffs State Park)が観光地として有名で、自然豊かな都市でもある。スポーツ施設としては、エリー・インシュランス・アリーナ(Erie Insurance Arena)やUPMCパーク(UPMC Park)、エリースポーツセンター(Erie Sports Center)などを有している。
設立経緯と経済効果
Erie Sports Commission(以下、ESC)は「イベントをエリーに招致し、イベントの成功を手助けすること」をミッションとするスポーツコミッションで、エリー郡のDMO(Destination Marketing/ManagementOrganization)であるVisitErieにおけるコンベンション&ミーティング部門内のスポーツ担当者を中心として、2013年にVisieErie内の組織として設立された。予算はVisitErieから拠出されているが、活動はある程度独立して行っている。ESCはアメリカのスポーツイベント及びツーリズムの業界団体であるSports Events and Tourism Association(SportsETA)の表彰制度において、2014年、2016年、2023年と3度「SportsCommission of the Year」に選定されている。
近年、ESCは多くのスポーツイベントの招致に成功しており、2020年と2021年を比較すると、イベント開催日数は65日から174日に、利用施設数は15から18に増加している。また、経済効果は920万ドルから1,800万ドルまで増加した。さらに、2022年は2021年と比較して7.2%多い74のイベントを招致し、2,080万ドルの経済効果を生み出している。
ESCが支援したイベントの約70%が継続的にエリー郡で開催され、2021年と2022年を比較すると、地域内のホテル稼働率は4.2%上昇して51.8%に、ホテルの平均宿泊料金は6%増加、訪問者の支出金額も13%増え178ドルとなった。特に規模の大きいイベントは、ペンシルベニア州レスリング選手権(Keystone State Wrestling Championships)であり、州内から約4,000人の選手が3月17日の聖パトリックの祝日(St. Patrick’s Day)を含む4日間の週末にエリー郡を訪れ、400万ドルの経済効果があった。
資金調達
人件費や事業費など、ESCの活動に関する予算はすべてVisitErieから拠出されており、2022年の予算は約20万ドル(人件費や福利厚生等を除く)である。この予算はマーケティングやイベント招致のために活用されている。なお、2023年は約24万ドルに増加しているが、会場関連補助金(例:会場の修繕、器具の新規購入に使用される補助金)が増額となったためである。
職員と採用・教育方法
調査時点でフルタイム職員は2人(定員は3人)であり、パートタイム職員が1人となっている。なお、VisitErieのフルタイム職員は7人、季節雇用者が5人である。
新規職員の募集方法は、IndeedやLinkedInといった検索サイトや、会員・クライアントからの紹介がメインである。採用後はSports ETAなどの団体を通じて複数のジョブトレーニングを受講させる。なお、受講料はESCで予算化している。加えて、Sports ETAによる教育プラットフォーム「Sports Tourism Strategists」(STS/資格取得には32単位が必要)を利用して、職員の成長を促している。
大学生インターンは夏、秋、冬にそれぞれ最大3人を採用するが、通常は1人となっている。インターン中は無給かつ保険を適用しないため、終了後にギフトカードの形で報酬を出す。現状、インターンはイベント部門とマーケティング&コミュニケーション部門の2つの部門で募集している。ただし、マーケティング&コミュニケーションで採用されたとしても、イベント関連の業務を行う可能性はある。エリー郡内には大学が4つあり、多くはそこから採用するが、夏のインターンはエリー市に滞在が可能なため、郡外から採用することもある。2013年の設立以降、48人のインターン生を採用した。
人材への期待
調査時点の定員3人のうちの空き枠1人を募集している。ポジションはマーケティング分野で、マーケティング、コミュニケーション、イベントマネジメントの学士を有していることが望ましいとの要件である。また、実務経験としてのスポーツマネジメントやツーリズムの背景や営業の経験も加点となる。ESCは財政規模的にも雇用できる人材が限定されるため、複数の業務を横断的に遂行してもらう必要がある。人物像としては情熱があり、限られた環境でもキャリアを楽しむことができる人材を必要している。
組織体制
ESCには2つの部門(イベント部門、マーケティング&コミュニケーション部門)がある。イベント部門では主にイベント招致・支援を行い、マーケティング&コミュニケーション部門では招致したイベントの開催に向けたマーケティング活動や、自治体及びスポーツ施設側との調整を仲介し、滞りなくイベントを開催するため補佐を行う。ただ、フルタイム職員の人数が少ないため、部署横断的に業務を遂行している。
ESCのExecutive DirectorであるMark Jeanneret氏はカナダ出身で、設立時からの正規職員である。もともとアイスホッケーの熱狂的なファンであり、アイスホッケーチームのフロントスタッフとしてチームのホテルや遠征の計画に従事していた。カナダ・オンタリオにあるナイアガラ大学で放送番組のプログラムを卒業。学士号は未取得。
Event ServicesDirectorであるBen Huggler氏はアイススケート等のスポーツイベントをプロデュースする会社に13年、その後は製薬会社やソフトウェア系のカンファレンス・コンベンション等を誘致・開催する会社に勤務し、2018年から現職である。ペンシルベニア州立スリッパリー・ロック大学(SlipperyRock University of Pennsylvania)にてリゾートツーリズムとスポーツマネジメントを学び、大学の同期の多くはプロスポーツチームや、リゾート・レクリエーション系の業務に従事している。
ステークホルダーとの関わり
エリーでは、Erie Eventsというエリーの文化やエンターテインメントに関するイベントを招致する団体が、ジュニアアイスホッケーチームのエリー・オッターズ(Erie Otters)の本拠地であるエリー・インシュランス・アリーナ、マイナーリーグベースボール(Minor League Baseball:MiLB)のダブルA(AA)に所属するエリー・シーウルブズの本拠地であるUPMCパーク、ベイフロント・コンベンションセンター(BayfrontConvention Center)を運営している。また、エリースポーツセンターに併設するレコン・スポーツパーク(LECOM Sports Park)は、10のアウトドアフィールド、バスケットボール/バレーボールコート4面、NHLサイズの2つのアイスリンクなど、複合的に施設を有している。ESCはこれら団体と連携し、郡外のイベント主催者に対して施設の営業を行っている。
イベント運営
ESCはイベントの規模に関わらず、主催するのではなく、あくまでも主催者と自治体・宿泊施設・施設等との仲介を担う立場にある。イベントの多くが毎年継続的に開催されており、新規のイベントは20程度である。将来的には年間で100イベントの開催(2022年は74イベント)を目標としており、ESCの規模拡大に繋がると考えている。
ESCにとっては、イベント開催地として選ばれることが大きな課題である。設立当初はエリー郡という場所の認知度が低く、開催地として選定されることが少なかった。そのため、パンフレットなどの広報物には、エリー郡を中心に州内のピッツバーグ、ニューヨーク州バッファロー、オハイオ州クリーブランドまでそれぞれ車で90分と、近郊の都市圏からのアクセスの良さをアピールしている。
また、近年はコンサルティング会社と契約を締結し、住民や地域関係者を対象にした調査を実施した。調査結果を開示することで、スポーツイベントを招致するメリットを提示し、住民に理解をしてもらうよう努めている。
宿泊税
エリー郡は7%の宿泊税を課しているが(ペンシルベニア州の税率が6%のため、宿泊者は合計で13%の税を支払う)、エリー郡の宿泊税7%うち80%がErie Eventsへ配分され、残りの20%がVisitErieへ配分される。その後、VisitErieからESCへ活動費が拠出される。なお、ベッド数が15以下のホテルからは宿泊税を徴収しない。2022年のエリー郡の宿泊税収入は2021年より22%増加するなどコロナ禍以前を超え、2001年以来最高となる250万ドル強を記録した。
今後の事業のあり方
スポーツコミッションの継続的な運営に必要なことは、チャンスに投資をし続けることである。ESCの主な業務は郡内・郡外のイベント主催者にエリーの施設を利用してもらうことであるため、魅力的な施設の維持および新しい施設の建設が進むよう、資金集めに対して積極的に働きかけている。施設が改善されると、開催されるイベントが劇的に変わる。
ESCは設立して10年であるが、比較的経営は安定している。それは親組織であるVisitErieの変化が重要であった。VisitErieの職員が入れ替わり、よりプロフェッショナル化することによって、組織自体が良い方向に向かっている。また、コンサルティング会社との契約によって、自組織の強みや弱みを客観視したことも重要なポイントであった。加えて、こうした調査結果などの情報を開示し、地域住民に説明することが重要だと認識している。