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2025.01.31

【事例紹介】地域おこし協力隊の活用(石垣島スポーツコミッション)前編

温暖な気候と自然や文化に恵まれ、豊富な観光資源を持つ国内有数のリゾート地・沖縄県石垣市。

2023年3月、沖縄県石垣市で「石垣島スポーツコミッション」が設立され、市内のスポーツ振興やスポーツツーリズムによる地域活性化、魅力の創出などを目指しています。温暖な気候と、リゾート地だからこその接客サービス業や飲食業の多さに着目し、「アルバイト×合宿」という取り組みを進め、スポーツ合宿の誘致を行っています。

現在、石垣島スポーツコミッションを牽引しているのが「地域おこし協力隊」の存在です。なぜ「地域おこし協力隊」という方法を選んだのか、石垣市スポーツ交流課の大浜さんと長嶺さんにお話を伺いました。

石垣市スポーツ交流課 大浜さん・長嶺さん

持続可能な体制づくりと、県外から見た島の魅力を発掘することを期待

―今回、地域おこし協力隊の募集を行った背景を教えてください。

長嶺さん(以下、長嶺):石垣島スポーツコミッションの設立に伴って募集を行いました。市役所の中に石垣島スポーツコミッションの事務局があるため、職員の異動によって担当者が変わる可能性があり、持続可能な体制づくりが難しく、不安定さが残ってしまうのではないかと心配していました。そこで、持続可能な体制づくりのために地域おこし協力隊の募集に踏み切りました。また、新しいアイデアや、県外から見た島の魅力発掘なども期待していました。

―元々、石垣市役所で地域おこし協力隊の採用実績があったようですね。

大浜さん(以下、大浜):3人くらいですね。企画政策課だけでも2名います。

長嶺:あとは委託型の方もいらっしゃいます。内容としては、ふるさと納税、空き家の開発、公営塾などの事業を進めてくださっています。

―石垣市としては、地域おこし協力隊を受け入れることにハードルはなかったということでしょうか。

長嶺:そうですね。ただ、今までの採用は全て企画政策課での採用だったので、スポーツ交流課での募集・採用は初めてでした。

―募集要項の作成や、採用活動を進める中で大変だったことはありますか?

長嶺:どこまでの能力を求めるかが難しかったです。条件を出しすぎると応募者が増えないかもしれないという点が心配でした。会計年度任用職員としての採用で月給も決まっているため、「この報酬額でこれだけの能力の人が来てくれるのだろうか?」という点も難しく、知識・経験・やる気……どの条件を優先させるかで悩みました。

「地域・市民のことを第一に考え、地域に馴染んでアクティブに動ける」に重点を置いた採用活動

―今回、採用にあたって優先したことや、重要視した点はありますか?

長嶺:地域や市民のことを第一に考えて行動してくれるということが最重要要件でした。スポーツコミッションの根本にあるのは地域活性化、市民のための活動なので、それを念頭に置いて行動できる人です。

大浜:とにかく、現場に行って動ける人です。

長嶺:選考では、今までどんな活動や事業をしてきたか、どのような立場にいたかなどを中心にお聞きしました。今回採用した方は、サポートする立場というよりも、自分が主体となって動いていた方。自主的にアイデアを出して行動してほしかったので、それが決め手になりました。

大浜:いろんなメンバーをまとめていかなければいけない仕事があったので、そこで中心になれる人が欲しかったですね。

―今回、東京都出身の26歳・新見さんに内定を出されましたが、決め手は何でしたか?

長嶺:受け答えがスムーズで、話したいこともたくさん持っていらっしゃいました。

大浜:やはり面談は大切です。お話しすることでその人の深みが見えてきます。

長嶺:沖縄県の中でも更に離島の石垣島への移住ということで、生活する中で不安なこともあると思います。新見さんは自分でできる趣味やストレス発散方法を持っていて、話も上手で地域にもすぐ馴染めるのではと思って採用を決めました。

大浜:実際、サーフィン仲間を作ってサーフィンしたり、サッカークラブに入って指導までして、すごい馴染み具合です。

―選考で迷ったところはありましたか?

大浜:他にも「良いな」と思う方がいて、課内で意見は割れました。

長嶺:ですが、今の状況でその方が持つスキルや経験を活かしきれるかを考えて、今回は新見さんに決定しました。

リゾート地でのスポーツ合宿。石垣島でアルバイトをしながら合宿することで、地域と学生にとってwin-winの関係に

―地域おこし協力隊着任後、新見さんはどういった活動をされているのか、今一度詳しくお聞きしてもよいでしょうか。

大浜:彼には「アルバイト×合宿」という事業を進めてもらっています。石垣島でアルバイトをしてもらって、合宿の費用を賄うという事業です。渡航費が高いので、それほど活動費がなくても経費を削減して合宿に来ることができます。あと、地域の人材不足解消。石垣島には大学生が1人もいないので、合宿で来てくれた方にアルバイトをしてもらえると非常に助かるんですよ。

長嶺:地域の人手不足という課題解決をしつつ、スポーツをしている学生さん・団体さんの活動費の確保になるという、お互いにとって良い条件でできる新しい形の合宿かなと思っています。新見さんには石垣市内の働き手を欲している事業所と、合宿に行きたいと思っている大学と連携を取ってもらっています。

―素晴らしいですね。合宿をしながら、地域により関わりを持ち、アルバイトで活動費も稼いで…一石三鳥くらいになりますね。

長嶺:交流人口が増えますね。スポーツをして、アルバイトで活動費を稼いで、宿泊して…石垣島での生活を体験することで、将来的には移住・定住につながったらいいなと考えています。

大浜:実際に声をかけてみると、案外需要があるんですよ。スポーツだけじゃなくて、ゼミ合宿でも行きたいという声もあります。直接大学へ行って営業をしたりしますが、良い反応をいただいています。

―新見さんが着任してからの様子はいかがですか?

長嶺:楽しんでくれているように思えます。

大浜:石垣の人より満喫しているよね。

長嶺:すごく知り合いが増えていて、安心しています。

―今後、活動においてどのようなことを期待されていますか?

大浜:これからは、スポーツコミッションが市役所からの独立に向けて進んでいきます。新見さん自身は3年間でどこまでできるか焦っているところもありますが、石垣市や他の団体の動きも見ながら動いていかないといけないところもあるので、自分だけで突き進むのではなく、周りを見ながら進んでいってもらえたらと思っています。そして、新見さんには任期終了後もずっと暮らしていけるような環境を作っていってほしいと思っています。

―スポーツコミッション事業に地域おこし協力隊を採用するメリットや、採用を検討している自治体に向けてメッセージがあれば、お願いします。

大浜:スポーツコミッションに地域おこし協力隊を導入する価値は大いにあると思います。

自治体が中心となって主導していく持続可能なコミッションの運営には、地域おこし協力隊の力が不可欠だと思っています。また、地域住民のリアクションや変化も感じており、地域全体への波及効果が感じられます。

長嶺:行政担当者だけでは繋がれない方々と繋がることができたり、地域おこし協力隊同士のコミュニティの中で他の地域からアイデアをもらったり、地域おこし協力隊が来なかったら知りえなかった情報もたくさんあるので、そういったメリットもたくさんあります。 ―行政だけでは踏み込めない部分まで踏み込んでくれるところは大きいですね。今後の交流人口の増加や地域活性化も大きく期待できそうです。貴重なお話をありがとうございました。

後編に続く

取材日:2024年12月5日(木)