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2025.01.31

【事例紹介】地域おこし協力隊の活用(石垣島スポーツコミッション)後編

「石垣島スポーツコミッション」の地域おこし協力隊インタビュー後編です。

前編はコチラ

自治体の職員ではなく「地域おこし協力隊」の立場として石垣島スポーツコミッションの活動を進めていくことは、自治体にどういった可能性をもたらしていくのでしょうか。

今回は、石垣島スポーツコミッションにて活動を行っている、地域おこし協力隊の新見さんにお話を伺いました。

地域おこし協力隊員 新見さん

東京都出身、営業マンを経てサッカーのコーチを担当。営業の経験を糧にして度胸や忍耐力を身に着ける

―まず、ご出身や今までの経歴など、プロフィールをお聞きしてもよいでしょうか。

新見さん(以下、新見):東京都生まれ、東京都育ち、東京で働いていました。新卒で入った企業での営業を経て、2年半の間サッカーコーチをしていました。入社2ヶ月で営業成績1位を取ったことがあり、営業は得意です。しかし、働いていく中で会社の考え方と合わない部分が出てきて、半年で退職しました。その後は好きなことをしようと思い、サッカーのコーチとチームの運営の仕事を始めました。沖縄県の大学に進学していたので、3年ほど東京で働いたら沖縄に戻って働きたいと思っていたところ、ちょうど社会人になって2年半ほど経ったタイミングで石垣市の地域おこし協力隊の募集を見つけて、今までやってきた営業や、サッカーチームの運営やイベント企画の経験が活きるのかな、と思って今に至ります。

―サッカーコーチ以外にも、営業のご経験があったんですね。

新見:営業を半年経験して、度胸や忍耐力はつきました。飛び込み営業や100件以上電話をかけるなどの経験もあったので、今の事業の中で、事業所に電話したり伺ったりすることもありますが、全く抵抗はありません。あの半年がなかったら今はないと思います。

―現在、「アルバイト×合宿」というユニークな事業を進められていますが、他に取り組まれている事業はありますか?

新見:「アルバイト×合宿」の他にスポーツフェスティバルの企画運営、サイクリングイベント、モルック大会の4つがメインの事業です。また、あくまでも石垣市の会計年度職員なので、石垣市の職員としてスポーツ交流課の仕事もしますし、石垣市役所の仕事もしています。

サイクリングイベント
スポーツフェスティバルでのモルック体験会

外部に向けた活動だけでなく、地域の人たちへの貢献もしていきたい。学生時代を過ごした沖縄への恩返しをしたい

―今後やってみたいことをお聞きしてもよいでしょうか?

新見:地域おこし協力隊としては、まずは石垣島スポーツコミッションの法人化。自治体から独立して、組織を回していくことです。また、副業としてサッカーのクラブチームでコーチをしていて、そのクラブチームを大きくしたいと思っています。もちろん、域外向けのイベントや合宿で外から人を呼んでくることもしていますが、地域住民、特に子どもたちに一流のものを見せてあげたいと思っています。石垣島ではJリーグの試合がなく、プロ野球の試合も沖縄本島では開催されますが石垣島ではありません。沖縄本島では身近にスポーツに触れられる環境があり、東京では当たり前のように週末にスポーツ観戦ができます。けれど、ここにはそういった環境がない。もったいないと感じる気持ちも大きいですが、本州や沖縄本島と同じようにできるかというとそうではないので、キャンプの誘致やスクールの開催などで、島の子どもたちへ還元できるような活動がしたいと思います。

―地域の方々に対してどれくらい価値創造や貢献ができるのかも大事にされているんですね。

新見:沖縄の大学で初めて一人暮らしをして、初めてのアルバイトをして、体育会の部活に入って、勉強しなきゃいけなくて…当時はてんやわんやだったんです。その時に沖縄で出会った友人や先生、バイト先の人、部活の先輩など、沖縄の人にすごく支えられました。だから、沖縄に恩返しをするために戻ってきたいと思っていました。一度東京で働いて勉強して、スキルをつけた状態で沖縄に帰ろうと考えていました。根底にあったのは、やはり「恩返し」の気持ちです。

―移住に対しての不安はありましたか?

新見:不安だけど、どうにかなるだろう、と。不安に思っていてもしょうがないと考えていました。

―準備しておいた方が良かったことや、これから沖縄県や石垣島に移住しようとしている方、地域おこし協力隊を目指している方へ伝えたいことなどはありますか?

新見:採用にあたっての面接で、石垣島に行きたかったと思いました。一度足を運ぶことで、地理や市街地の様子など、暮らしに直結する部分を直接見られるので。実際に行ってみるのと、東京から見てみるのとではだいぶ違うと思います。

―実際来てみないと暮らすイメージはつきにくいですよね。

新見:実際に足を運んで生活を見てみることが、意外と着任してからの違和感やミスマッチを減らすかもしれません。悩んでいる方にとっての決定打にもなると思いますし、やはり現地に「行く」ことは大切だと思います。

憧れていた地域おこし協力隊という働き方。仕事がライフワークになり、様々な繋がりが生まれる

―今回、地域おこし協力隊として働いてみていかがでしょうか?

新見:これは絶対話そうと思っていたんですけど(笑)。 実は、地域おこし協力隊になるのが夢だったんです。地域おこし協力隊のドラマが大好きでした。小学生の時から地域おこし協力隊という働き方があることを知っていて、憧れていました。そのため、沖縄に戻ろうと思ったタイミングで、最初に「地域おこし協力隊 沖縄」で検索をしました。着任後は大きなギャップはありませんでしたが、民間から行政という面ではギャップがありました。事業の進め方やお金の使い方、スピード感などはまるで違いました。最初は行政の働き方に合わせようと思っていたのですが、改めて地域おこし協力隊のドラマを思い出して、「ここでずっと変なことを言うのが地域おこし協力隊だ」と(笑)。 そこからは、これが自分の役割で仕事だと思っています。

―移住後の暮らしはいかがでしょうか?

新見:東京の暮らしとはだいぶ変わりました。今までは忙しい生活の中でプライベートの時間を作るために、オンオフをはっきりつけていたのですが、今は時間的にも余裕ができたことやのんびりとした土地柄もあり、仕事とプライベートの境目が緩やかになりました。あとは趣味のサーフィンやサッカーができているのも大きいです。実は、地域おこし協力隊の応募をするときに、沖縄県の他の自治体も同時に応募していたのですが、「波」があるのが石垣市だけだったんです。つまり、サーフィンができるのは石垣市だけ。サーフィンって、すごく心が洗われます。それができる環境が、本当に今ありがたいと感じています。移住して、趣味を糧に頑張れています。

―Well-Beingということですね。仕事とプライベートの境目が緩やかになっていることで、ライフワークになっているようにも思えます。

新見:そうですね。サッカーのコーチの繋がりがスポーツコミッションに繋がってくるかもしれないですし、そもそもスポーツコミッションの仕事がサッカーのコーチに繋がるかもしれません。また、サーフィンで知り合った人が繋がってくるかもしれません。仕事モードじゃなくても、アンテナを立てておけばいいのではないかと思います。

―暮らしと仕事がひとつになっているということですね。どういうところにやりがいやモチベーションを感じていますか?

新見:イベントを開催したり、「アルバイト×合宿」で事業所と話をしに行った際、楽しんでもらえたり、「いいね」と言ってもらえるときです。自分の仕事に対して答えを出してくれるのは地域の人なので、今はみんなが幸せになることがやりがいになっています。例えば、今回スポーツフェスタで障がい者スポーツを増やしました。そこで、高齢の車いすの方に体験ブースのお手伝いとして入ってもらいましたが、「子どもたちが楽しんでいるのを見て、こっちまで元気が出た」と喜んでいただけて、「来場者だけでなく、運営や手伝ってくれる人まで元気にすることができるんだ!」と思い、とても嬉しかったです。また、東京でやっていたコーチの仕事が繋がることもありました。大会を組んだり、「アルバイト×合宿」で来てくれたり…そうやって今までやってきたことが繋がったり、不意なところで喜びを感じてくれたりしたときに、「ああ、よかったな」と思います。

課題は目標設定。どこまでの人を喜ばせられるか

―逆に、今課題だと思っていることや、改善したいことはありますか?

新見:難しいのが、どこまでを「地域おこし」として見るかということです。石垣市は島ですけれど、人口は50,000人いるんです。その50,000人をどこまで喜ばせられるか。50,000人のうち、何千人を喜ばせられれば、地域おこし協力隊のミッション完了なのか。どこまでやればいいか、目標設定が難しいです。

―そこは、悩まれている方も多いところですね。しかし、実際に新見さんは、いくつかの目標設定のために仲間を作ったりしていますよね。

新見:石垣市に来たばかりの時に言われたのが「地域おこし協力隊はスーパーマンじゃない」という言葉でした。その時は「え、スーパーマンじゃないの?」と驚いたのですが、活動をしているうちに「1人じゃ無理だ」と気づきました。そこで、ネットワークづくりというか、自分のやっていることややりたいことを人に話すようにしました。そうしているうちに、少しずつ人との繋がりや仲間ができていきました。こういうことがスポーツコミッションの仕事、そして地域おこし協力隊の仕事なんだと思いました。

―今後、地域スポーツコミッションに関わりたい方や地域おこし協力隊になりたい方にメッセージをお願いします。

新見:スポーツコミッションって何でもできる気がしています。あらゆる可能性があるというか、他の自治体でもいろんなスポーツの絡め方をしています。スポーツが好き、体を動かすのが好きな人は面白いんじゃないかと思います。また、いろんな勉強をしなければいけないと思っています。まちづくり、観光、会計、経営、お金の動き、都市計画など…様々なものが関わるし、勉強ができるので、ライフステージが変わったときに絶対に活きることだと思います。スポーツに何かしら関わってきた人は、一度スポーツコミッションに関わってほしいなと思います。

―スポーツを通して、幅広い学びや活動を行うことができる点に大きな魅力があるということですね。今後とも、スポーツコミッションに様々な可能性を見出し、活躍されることを期待しています。貴重なお話をありがとうございました!

取材日:2024年12月5日(木)