【事例紹介】地域プロジェクトマネージャーの活用(SCいぶすき)前編


薩摩半島最南端・鹿児島県指宿市。温泉や食に恵まれ、温暖な気候から穏やかな雰囲気溢れるまちです。
指宿市では、2020年の鹿児島国体開催に向け、市内の競技場や体育施設などの整備が行われました。そこで、スポーツ環境の充実を一過性で終わらせてはいけないという想いで「スポーツコミッションいぶすき」が設立され、地域おこし協力隊を活用しながら運営を行ってきました。現在は、スポーツ産業の振興やスポーツを通したコミュニティづくりを「地域プロジェクトマネージャー」の力を活用して進めています。
なぜ「地域プロジェクトマネージャー」によるスポーツコミッションの運営に舵を切ったのか。指宿市役所 産業振興部 スポーツ振興課の坂元さんにお話を伺いました。

民間的発想を活かしてスポーツを通した地域活性化を目指し「地域おこし協力隊」の採用を開始
―今回、地域プロジェクトマネージャーの募集を行った背景を教えてください。
坂元さん(以下、坂元):過去にもスポーツコミッションにおける地域おこし協力隊の採用実績はあり、スポーツコミッション事業に3年間関わっていただきました。もともと地域おこし協力隊の採用を決めたきっかけは、民間的発想でスポーツを通じた経済の活性化を図りたかったということです。私も含めて公務員が苦手とする分野だったのですが、そのときに総務省が地域おこし協力隊の推進を行っていることを知り、民間の発想を活かして、専任に据えたらどうかと思い採用を行いました。
―行政の中で専任者を置く必要性というものも感じていたということですね。
坂元:そうですね。行政の中でこういった業務を行うとなると、どうしても片手間になってしまうことがあり、専任で業務を行ってくれる良い人材を採用したいと考えて、地域おこし協力隊の採用を決めました。
―当時、地域おこし協力隊の採用を通してどんなことを期待していましたか?
坂元:ありきたりな、これまでの踏襲ではなくて、民間的発想でイベント企画や交流人口の拡大を図ってくれることを期待していました。基本的には域外向けの施策を進めていただき「どのような手法で九州の南端まで来てもらえるか」を考えてもらっていました。また、地域に溶け込める方に来ていただきたいと考え、自治会加入もお願いしていました。
―今回、地域プロジェクトマネージャーの採用に当たって、どういったことを期待していましたか?
坂元:地域プロジェクトマネージャーの採用は、私が提案しました。「スポーツコミッションいぶすき」を立ち上げたのはいいのですが、このまま行政で運営していくか、独立した法人にするのか、既存の関係団体などと合併すべきかなど、組織として過渡期を迎えていました。今後の組織の在り方も含め、地域プロジェクトマネージャーに筋道を作っていただくことを期待していました。
―前回の地域おこし協力隊の採用と、今回の地域プロジェクトマネージャーの採用では、期待していることの違いなどはありましたか。
坂元:前回採用した地域おこし協力隊の方には、ゼロベースで様々なものに取り組んでいただきました。その頃にできたイベントが大きくなり、行政がイベント運営で手一杯になっていたため、地域プロジェクトマネージャーに入ってもらい、まずは地域への還元と行政との役割の整理を行っていただきたいと考えていました。過渡期を迎え、今後のスポーツコミッションの組織をどうしていくか、地域の方や関係団体との調整役として活躍いただけることを期待していました。
地域SCの組織づくりを進めるために「チームワークや協調性」を重視した選考
―地域プロジェクトマネージャーの募集にあたり、大変だったことや課題はありましたか?
坂元:庁内で給与面のすり合わせが課題でした。制度上では地域おこし協力隊よりも地域プロジェクトマネージャーの方が報酬を高く設定できるのですが、あくまでも会計年度任用職員という立場から、庁内では求めるスキルや業務内容に見合った報酬額まで引き上げることができませんでした。そのため、過去に応募された方がいらっしゃったのですが、こちら側の求めている人物像とはマッチせず、結局採用を見送った経緯がありました。
―今回の募集では応募者が3名いらっしゃったとのことですが、最終的に鈴木さんに決められたきっかけや印象をお聞きしてもよろしいでしょうか。
坂元:私は面接には関わっていなかったので、その時の担当者に聞いたのですが、最終面接に残った2名とも評価が高く、接戦だったようです。もう1人の方は「いろんなことをどんどん推進していきたい」といった印象で、鈴木さんは協調性があり、みんなとチームワークを組んで進んでいけるような印象だったそうです。その中で、今回はチームワークや協調性を持った鈴木さんの採用を決めました。
―今回、地域プロジェクトマネージャーに求めるものが、地域の方や関係団体との調整役だったため、そこでお力を発揮できそうなのが鈴木さんだったということでしょうか。
坂元:そうですね。
―面接にはどういったポジションの方が関わられたのですか?
坂元:市長、副市長、スポーツコミッションいぶすきの会長、部会長が面接に入りました。
―現在はどういった業務を進めていただいていますか?
坂元:地域おこし協力隊が作ったイベントを引き継ぎ、イベントの膨らんだ部分の調整を行ってもらっています。まだ1年目なので、組織づくりには着手していないのですが、事業の引き継ぎ・調整を行いながら、地域の方との関係を構築されています。
―今後はどういった業務や活動を行っていただくか、考えているところはありますか?
坂元:現在はまだ事業を通して地域を見ている段階なので、今後は組織をどうしていくか、より深い話をしていけたらと思っています。2年目にはスポーツコミッションとしての方針作りを一緒に進めていきたいです。

安心感のある、地域との丁寧なコミュニケーション
―坂元さんから見て、鈴木さんの活動についてどう感じられていますか?
坂元:まず一対一の対話から入り、人柄を知ってから動いている姿が印象的で安心感があります。コミュニケーションを取って動いているところが、彼の特徴ですね。人の話を聞くのが上手です。休みの日は地域のイベントに視察に行ったり、地域の人に会いに行ったりしています。
―今後、鈴木さんに期待していることはありますか?また、課題はありますか?
坂元:指宿市の風土はのんびりしているので、今のような感じでいろんな人とコミュニケーションを取りながら、地域に溶け込んで良い方向性を見つけてくれるんじゃないかと思います。課題としては、来年2年目になるので、どこまで方針作りができるかというところです。また、市役所は人事異動があるので、私も含めて、関係者が異動になった場合、人間関係の再構築は課題かもしれません。
―スポーツコミッション事業に地域プロジェクトマネージャーや地域おこし協力隊を採用するメリットや、採用を検討している自治体に向けてメッセージがあれば、お願いします。
坂元:初めて採用を進める部署など、自治体によっては、地域おこし協力隊や地域プロジェクトマネージャーの採用が難しい場合もあると考えます。しかし、財政面や民間的発想を活かしていけることを考えると、地域おこし協力隊や地域プロジェクトマネージャーを活用していく価値はあると思います。特に地域プロジェクトマネージャーは専門的な知識や経験を活かして、より難易度の高いミッションに携わってくれる人材となります。
一番大切なのは、組織の中で地域おこし協力隊・地域プロジェクトマネージャーを「受け入れたい」という思いや覚悟、準備など、受け入れ側の姿勢なのではないかと思います。
―「とりあえず人手が欲しいから募集する」のではなく、「こういう人に来てほしい」「こういうことを一緒にやっていきたい」という受け入れ側の意思をしっかり持っていただいた方がよいということですね。
坂元:そうですね。とても大切だと思います。
―受け入れ側のビジョンを明確に持つことは、他の自治体さんにも共通する大切なことですね。貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
※後編に続く


取材日:2024年12月10日(火)