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2025.03.11

【事例紹介】地域プロジェクトマネージャーの活用(SCいぶすき)後編

「スポーツコミッションいぶすき」のインタービュー後編です。
※前編はコチラ

スポーツコミッションの運営を、自治体ではなく「地域プロジェクトマネージャー」が担うことで生み出される可能性やメリットはどういったことでしょうか。スポーツコミッションいぶすきの運営を担当する地域プロジェクトマネージャーの鈴木さんにお話を伺いました。

地域プロジェクトマネージャー
鈴木さん

ゲーム会社を経てスタートアップ企業に。次のキャリアは「スポーツで地域活性化」を目指す。

―ご出身や今までの経歴など、プロフィールをお聞きしてもよろしいでしょうか。

鈴木さん(以下、鈴木):出身は兵庫県西宮市です。大学進学を機に長野へ行き、就職で京都に住み始めました。20年ほど京都に住み、それから鎌倉と金沢の二拠点生活を送っていました。現在は金沢と指宿で二拠点生活を送っています。京都に住んでいたときはゲーム会社に勤務し、ゲームの効果音を作ったり、ゲームの企画をしたりしていました。20年ほど勤めた後、新しいことがしたいと思い、地方創生に興味を持ち始めました。それまではゲームを通して「人を楽しませるスキル」を発揮していましたが、そのスキルは地域でも活かせると思い、地域関連事業のある会社へ転職し、鎌倉へ移住しました。

―そこから今回、指宿市の地域プロジェクトマネージャーに応募したきっかけはありましたか?

鈴木:きっかけは複雑なのですが、地域関連事業の会社では実際の業務がやりたいことと少し離れていて、そこから転職して5年ほどスタートアップ企業で働きました。その企業は廃業してしまったのですが、廃業の半年前に、金沢で「都市の人材」「地方の企業」「大学」で構成される共創型企業・人材展開プログラムに任用され、鎌倉に住民票を置いたまま半年ほど金沢へ移住していました。金沢でのプログラムが終了し、スタートアップ企業も廃業したタイミングで「次は何をやろうかな」と仕事を探し始めていたんです。その中の1つが「スポーツで地域活性化」という指宿市のスポーツコミッションの募集でした。もともと子どもたちがスポーツの道を歩んでいたこともあり、スポーツを使って笑顔を増やしたいと思って、応募を決めました。

―スポーツでのまちづくりに関心があったとのことですが、もともとはどのようにスポーツに携わりたいと思っていましたか?

鈴木:特定のスポーツで言うと、私は野球畑の人間で、子どもたちも野球をやっていました。野球の世界って少し閉鎖的で、指導方法も統一されていないんです。指導者のライセンス制度がうまくいっているサッカーやバスケットボールの世界を見ていると「野球の世界はなかなか変わらないな」「自分がやるならこうするだろうな」という思いはずっとあったので、どこかで「変える人」「壊す人」になりたいと思っていました。そういうタイミングを探していました。

―今回、指宿市を選んだ理由はありますか?

鈴木:実は、指宿市について事前にあまり調べていませんでした。選考が進んで、最終面接のご連絡をいただいてから場所を調べました。地域を元気にしたいというのは、指宿に限らず、地方であればどこでも一緒かなと思っています。その中で自分がやってきた「人を楽しませるスキル」を活かしてチャレンジできるご縁をいただいただけかなと。指宿を選んだ、というわけではなく、たまたまスポーツで募集を調べていてご縁をいただいた。そしてタイミングが重なった、という感じでした。

―移住する際に不安なことはありませんでしたか?

鈴木:むしろ、何も知らないところに行きたかったです。全国を転々とし始めてからは、見るもの全てが新鮮で、行ったことのないところに住むことが楽しみでした。事前にネットや本で調べるよりも、まずは自分で体験してみるタイプなので。

―「地域おこし協力隊だから」「地域プロジェクトマネージャーだから」という理由ではなく、ミッションや仕事の内容から応募を決めたということですね。

鈴木:そうですね。ゴールは1つなので、あまり肩書を感じずにやっています。前任の地域おこし協力隊の方ともお会いしたんですけれど、前任者のスキルとは異なる方向性だったからこそ、採用していただけたのかなと思います。

民間企業と公的機関のギャップ、昨年度決めたことを進めていく

―現在の活動はどういったことをされていますか?

鈴木:まだ序盤なので、行政の仕組みや流れに乗りながら、昨年度に決めた事業・イベントを引き継いで進めています。その中で、自分なりにアップデートしたり、裁量を持ってできるところを自分で企画してやっています。今は2ヶ月に1回くらいの頻度で市外向けのイベントを担当しています。流れがわかっていない中でイベント運営を進めているので、大変ではあります。

「サンフレッチェ広島レジーナ」
指宿キャンプの激励式の様子

―選考の中でイメージしていたことと、現在の業務でギャップはありますか?

鈴木:もっと自由に企画してイベントなどをできるイメージはありました。「昨年度決めた予算・企画を進める」というイメージがなかったので、そういったギャップはありました。ずっと民間企業である程度の裁量を持って働いていたので、公的機関の進め方や、議会の承認などは働き始めて改めて知りました。

―指宿市での移住生活について聞かせてください。今後指宿市に移住したり、地域おこし協力隊に着任する方に向けて、必要なことや伝えたいことはありますか?

鈴木:車は必要だと思います。未だに持っていないですけど…。真夏の暑さや梅雨の長さ、湿気もあるので。湿度は想像以上で、カビやダニに悩まされました。

―指宿市に住んで良かったところはありますか?

鈴木:人はすごく良いです。歴史的な理由もあると思いますが、薩摩地方の人は新しいことを受け入れる土台があるのかなと思います。いざ物事が決まると進みが早いです。自分は薩摩地方のペースに合っていると思います。

―現在、注力していること、重点を置いていることは何ですか?

鈴木:イベントにはだいたい顔を出しています。一人では何もできないことはゲーム会社に勤めていた時代から感じていたので、まずは仲間を増やすことに注力しています。人と話して、どういった人がキーパーソンか、誰に話をすると話が早いか…を、先に把握するようにしています。休みの日は指宿市内を歩いて回っており、おかげでまちの中の様子もわかってきました。空き家が多いな、とか。

―現在やっていることのやりがいはどんなところですか?

鈴木:自分らしさをそこまで出している段階ではなくて、結果がでているかというと、まだ土台作りをしている状況です。課題点も同時に見えてきて、どういう優先順位で問題     をつぶして、やりがいや達成に繋げていくかを考えているところです。ただ、スポーツは小学生・中学生・高校生など、将来の日本を背負っていく世代と関わることができる領域なので、とてもやりがいを感じますね。

地域の中高生への「デザイン思考」ワークショップを通じて、地域プレイヤーを育てたい

―今後、どのようなことに取組んでいきたいですか? 

鈴木:行政の中で、「こんなことができたら楽しくないですか?」ということをどのように伝えるか、という伝え方の作戦を練っていかなければいけないと思っています。また、指宿市は観光地でもあるのですが、スポーツの事業をするとなると、観光とスポーツの両立には相互の協力が必要であることがわかったんです。たとえば観光地の繁忙期・閑散期とスポーツのキャンプやイベントの時期の兼ね合いなどの調整です。来年に向けて解決していきたいです。

鈴木:あとは、地域の中学生・高校生に対して「デザイン思考」のワークショップを開いています。「やってみて失敗して学んで次に活かす」という見方・考え方に興味のある学生さんを巻き込んで、ゆくゆくは共感してプレイヤーになってもらいたいと考えています。これからの日本を背負っていく世代に、チャレンジする楽しみや、おもてなしの仕方などを伝えて、育てていきたいなと思います。先日は「生涯学習フェスティバル」でワークショップをやらせてもらいました。

また、仲良くしてもらっている地域おこし協力隊の先輩と一緒に、空き家の問題とスポーツのブランディングをコラボレーションした事業ができないかと考えています。具体的にはシェアハウスです。南薩地域の子どもたちは、スポーツの強い高校に行こうとすると     地域から出てしまうんです。「本当は家から通える学校が良いけれど、環境が整っていな     かったり良い指導者がいなかったりで、結局地域の外に出て行ってしまう…」というお話を親御さんだけでなく高校側からも聞いていて。そこに受け皿となる拠点があれば、そ     こを寮としてシェアハウスにして、学校に通える環境を整備することで高校生が地域の外に出て行かなくても済む、という事業を提案しています。 

―最後に、今後地域スポーツコミッションに地域おこし協力隊や地域プロジェクトマネージャーとして関わりたい方や、スポーツコミッションに興味がある方に伝えたいことはありますか?

鈴木:未経験のことに対してポジティブに動ける人は、わりとうまくいくんじゃないかなと思います。スポーツも、私の中ではいくつかある武器の1つだと思っています。ベースになるものは「人が幸せに生きられるか」にどう自分が貢献できるか。どうやったら笑顔を増やせるか。昔はそれを達成する方法がゲームや音楽でしたが、今はスポーツで成し遂げようとしています。自分の中で芯となる目的が何か1つあると良いと思います。また、人を味方につけられると地域に溶け込んでいけるので、コミュニケーション能力や協働力、サービス精神がある人はどこでもうまくやっていけるのではないかと思います。そこはどこの地域にも共通しているのではないでしょうか。

―移住して地域に関わるということは、1人ではできないことの方が多いと思います。大切な心構えをお伝えいただきました。貴重なお話をありがとうございました。

取材日:2024年12月10日(火)