【事例紹介】石垣島スポーツコミッション
石垣島スポーツコミッションの新たな試み「アルバイト×合宿」
日本有数の観光地である石垣島(沖縄県石垣市)に、石垣島スポーツコミッションが設立されたのは2023年3月のことです。石垣市をはじめ市内のスポーツや観光、商工、福祉関係団体が構成員となり、「スポーツ×島の魅力²=無限大∞」というキーワードをもとに、スポーツツーリズムによる地域活性化や市民がスポーツに親しむことのできる環境創出を目指して発足しました。石垣市には、これまでにもプロスポーツチームをはじめとした多くのスポーツ合宿を行っており、スポーツ施設や宿泊施設等スポーツツーリズムに適した受入体制が充実しています。
石垣島スポーツコミッションのホームページには、石垣島でのスポーツ合宿を計画する際に便利な検索機能が備わっています。「スポーツ施設検索」「宿泊施設検索」「飲食店検索」といった一般的な検索欄と、その隣に一風変わった「アルバイト検索」のタブが並んでいました。これはスポーツ合宿に訪れる学生チームをターゲットにした、合宿期間中の学生と働き手不足の事業者をマッチングするための機能です。設立2年目となる今年度、石垣島スポーツコミッションが新たに取り組もうとしているのが、この「アルバイト×合宿」の仕組み作りです。
https://ishigakijima-sports-commission.com/
きっかけは仙台大学女子野球部
取組のきっかけとなったのは、仙台大学女子硬式野球部の春季キャンプでした。2023年4月に創設されたばかりの仙台大学女子硬式野球部は、大学の春休みを利用して2月15日〜3月5日までの約3週間、春季キャンプのため石垣島に訪れていました。地元高校の野球場を借りて練習を行うため、練習ができる時間帯は午後に限られ、午前中は空き時間となってしまいます。そこで空いた時間を有効活用しようと、野球部の監督が思いついたのがインターンシップとして現地の仕事を体験させることでした。市内2つのホテルがインターンシップを受け入れ、午前8時から午後2時までレストランでの接客や客室清掃などの業務にあたり、その後、野球場に移動して夕方から3時間ほどの練習を行いました。
高校との合同練習の調整やグラウンドの手配を行っていた石垣島スポーツコミッションは、合宿期間中にインターンシップが行われていることを知り、その様子に注目していました。スポーツ合宿に来る学生と働き手不足の事業者のマッチングは、双方にとって大きなメリットがあるように感じたからです。
スポーツを切り口とした働き手不足の解消とその先に見据えるもの
石垣市には大学等の高等教育機関がありません。そのため、20歳前後のアルバイトとしての働き手が極端に少なく、深刻な働き手不足を抱えています。特に繁忙期に必要な短期間の働き手は観光産業を中心に多くの業種で不足しています。一方で学生の部活動やサークルは活動費が少なく、十分な合宿を組むことができないチームも少なくありません。
仙台大学女子硬式野球部の取組を振り返ったところ、合宿先での社会貢献やインターンシップを通じた社会人としての基礎力向上につなげることができるだけでなく、活動費が少ない部活動において、アルバイトで資金を稼ぐことで長期の合宿を実現しやすくなるという面もあったそうです。受入先事業者も、インターンシップの経験を通して業界に興味を持つ学生が増えることを期待しているそうで、この両者の相性の良さを感じた石垣島スポーツコミッションは、担うべき役割のひとつに掲げている「地域課題や社会問題へのスポーツを切り口とした課題解決の取り組み」として、「アルバイト×合宿」の事業化を目指すことにしました。
現在は、2~3月の学生のスポーツ合宿シーズンに向けて、大学部活動と受入事業者の双方の開拓を行っているところですが、多くの大学・事業者が関心を示しています。現在は具体的な説明に入っている段階で、すでにホームページに求人情報を掲載するに至った事業者も出てきました。
また、石垣島スポーツコミッションでは「アルバイト×合宿」による働き手不足の解消を目指しながら、さらにその先に石垣島での就職や移住につなげたいという想いを秘めています。インターンシップに参加した学生の中にも、将来考える仕事の選択肢が増えたと語る学生がいたように、「体験」がキャリア選択のきっかけになることは十分に考えられることです。近い将来、この事業をきっかけに石垣島に移住してくる若者が出てくるかもしれません。 担当者は、まだまだ課題も多いと言いますが、同時に、この取組を収益化まで持っていくことができれば他の地域でも活用できる石垣モデルになるのではないかと大きな期待も口にしていました。スポーツを切り口に地域課題や社会問題の解決に取り組む石垣島スポーツコミッションの今後の動向にぜひご注目ください。