「地域スポーツコミッションシンポジウム2025」開催レポート
1月28日、東京都内でスポーツ庁が主催する「地域スポーツコミッションシンポジウム2025」が開催され、全国の地域スポーツコミッション関係者や自治体職員を中心におよそ150名の関係者が現地参加、およそ200名がオンライン視聴しました。

主催者代表あいさつ
開会にあたり、主催者を代表して室伏 広治スポーツ庁長官がビデオメッセージにて、「スポーツ資源を活用したまちづくりを推進するための核となる組織としての地域スポーツコミッション(以下、地域SC)の活躍に期待を込め、本シンポジウムをスポーツにとどまらない様々な組織連携の推進や地域SC同士のネットワーク構築に活用してほしい」とのあいさつを行いました。

基調講演「スポーツで地域の可能性を引き出す」
為末 大 氏(Deportare Partners代表)による基調講演では、「スポーツで地域の可能性を引き出す」というテーマで、外部の立場で地域SCと一緒に事業に取り組んだ視点でのお話をいただきました。
はじめに、2023年に山梨県韮崎市で開催されたニラリンピックについて、ご自身が関わることになったきっかけから、コンセプトづくりとその背景、予算規模や当日の様子、さらには翌年に行われた取り組みまでの説明がありました。この経験を通して、インパクトを大きくするためのポイントとして、想いを持っている人が想いで人を動かすこと、民間から出たアイデアに対して地域SCが地域内での道筋をサポートすることなどが挙げられました。
また、地域SCの活動が成功するための3つの視点として「絞り込み」(人々に認識されるために、どのようなスポーツの町にするかを明確にする)、「邪魔をしない」(スポーツ活動を妨げる規制を丁寧に解きほぐす)、「人の選定がすべて」(スポーツ関係者に限らず、多様な人材を巻き込み適切な役割を配置する)を挙げ、スポーツの定義や海外の事例、スポーツ界の実情などを踏まえた提言をいただきました。

地域スポーツコミッション先進事例紹介
<発表者>
久喜スポーツコミッション 会長 中村 弘毅 氏
金沢文化スポーツコミッション 代表 平 八郎 氏
NPO法人東北海道スポーツコミッション 理事長 中島 仁実 氏
<コーディネーター>
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構 藤原 直幸 氏
先進的な取組を行っている3団体の代表に、各地域SCの事業内容を紹介いただきました。

久喜スポーツコミッションは、「健幸・スポーツ都市」を掲げる久喜市において、官民が連携したスポーツによるまちづくりを推進する組織として、2024年3月に設立されました。民間活力を活かした魅力ある大会・イベントの実施や、専門人材の育成・確保、大会・イベント等の収益による自立した組織運営が期待されています。
久喜市に誘致した3X3プロバスケットボールチームと連携し、久喜スポーツコミッション設立前のプレイベントを開催するなど、3X3を核とした独自の取組を展開しています。また、スケートボードなどのアーバンスポーツや高齢者施設でも取り入れているデジタルスポーツの推進、障がい者と健常者が一緒に楽しめるインクルーシブなスポーツ環境の提供などの取組が紹介されました。将来的な法人化を見据え、目立った観光資源がない中でスポーツを起爆剤としたスポーツによる新たな観光資源づくり、民間活力を活かした地域内連携、稼げるコンテンツづくりを目指しています。

中村 氏
金沢文化スポーツコミッションは、交流人口拡大を活動の柱とするアウター型のスポーツコミッションです。金沢の強みである文化とスポーツをコラボレーションさせ、観光と結び付けた地域活性化を進めています。
2018年の設立以来、大会や合宿の誘致件数を順調に伸ばしてきていますが、大会誘致における地元競技団体への奨励金制度や、合宿誘致における民間企業への委託など、特徴的な誘致制度についての説明がありました。また、能登半島地震からの復興を目指して立ち上げた「スポーツのちからプロジェクト」について、募金活動や支援金を活用した交流事業、イベント等の支援活動の様子が紹介されました。支援活動を通じて県内の地域SCだけでなく県外の地域SCとの連携も生まれ、相互連携による可能性が示されました。

平 氏
東北海道スポーツコミッションでは、スポーツを活用した地域課題解決に向けた多様な取組が行われていました。
2016年の設立後、アイスホッケーによる国際交流や社会人リーグの設立、スポーツ合宿所の運営、スポーツメディアの立ち上げなど独自の事業が行われてきました。さらに、コロナ禍を機に経営の安定化を図るため、放課後等デイサービスや就労継続支援B型事業所兼合宿所の運営、遊歩道型アイスリンクの設置・運営などにも着手したことについて説明がありました。また、2023年には東北海道最大のスポーツ施設であるアリーナの指定管理を受託し、このアリーナを有効活用した地域文化スポーツソサエティの形成に向けた取組を計画しており、スマートベニュー構想の実現を目指しています。

中島 氏
パネルディスカッションでは、地域SCが全国的に広がってきた要因として、地域のニーズによってその地域に最適な活動を作り出し、地域が求めるものに柔軟に変化していける点が挙げられました。また、今後の地域SCの方向性として、全国の地域SCが様々な形で連携していくことへの期待が語られました。

今後のスポーツ庁の取組について
今後のスポーツ庁の取組について廣田 美香参事官(地域振興担当)から説明を行いました。
スポーツによる地域振興には、スポーツがもたらす5つの価値(経済、環境、健康、交流、ローカルブランド)を通じて「ウェルビーイング・生活の質の向上」「地域社会の一体感・ソーシャルキャピタルの強化」「社会の持続性・レジリエンスの向上」などを達成することが期待されています。そのために、地域SCにはアウター施策とインナー施策の循環によるスポーツを活かした地域課題の解決が求められていることをお伝えしました。
これらの取組を推進するための支援事業として、地域SC経営多角化支援事業、地域SC担い手育成等サポート事業、スポーツによる地域活性化・まちづくりコンテンツ創出等総合推進事業等についての説明を行いました。


地域SC交流会(名刺交換会)
会場を移して行われた地域SC交流会では、先進事例を紹介した3名との名刺交換の場に加え、6つの地域SCのブースが出展されました。各地域SCの取組や課題に関する情報交換だけでなく、民間企業と地域SCとの連携の可能性についても活発に意見が交わされました。
また、農林水産省および観光庁のブースでは、農山漁村におけるまちづくりやツーリズムによる地域振興の取り組みについての説明があり、スポーツの活用についての事例紹介や意見交換が行われました。


最後まで多くの方にご参加いただき、盛会のうちに終了しました。今後の地域SCの在り方について示唆を得るとともに、新たなネットワークの構築にもつながり、地域SCの今後の発展が期待されます。